④本当に「命」を売ることができるのか?『命売ります』三島由紀夫著

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『命売ります』という表題から

考えて、主人公は

「命」に対して高尚な考え方の持ち主

かと思いきや、この章は

羽仁男が「命」を必死に守っていく

話へとなっていきます。

「命を守る」なんて当たり前のことですが

ある日気がついたら

無意識に死が近く感じることが

あります。

本書のこの部分は、

そんな現実逃避の考え方から

リアルに引き戻されている

様子が書かれています。

つい目と鼻の先にあるタバコを

とりに立つ気がどうしてもしない。

十分タバコを

喫みたい気はあるのだが

ここから手をのばしても

届かないことはわかっている

タバコをとりに立つことが

何だか故障した自動車の後押しを

たのまれるほどしんどい仕事に

思われる。

それがつまり自殺なのだ。

『命売ります』三島由紀夫著

この頃の羽仁男はこれまで

命を売るかけたことで

まとまったお金を手に入れたので

少し、のんびりとズルズルと生きて

生きたかったら生きたらいいし

死にたくなったらまた

“命を売る“商売を再開しょうと

いうような

気持ちで過ごしています。

しかし、もう自殺はしたくない

ようです。

この“自堕落“な生活が気に入って

いるからです。

この「モラトリアム」は人を

優雅で怠惰にするものです。

この曖昧な感じに浸っている間は

自ら死を選ばないものです。

多分、羽仁男のような男は

一つのことからのがれても、

また別の「同類」に会うようになる

ように運命づけられているのかも

しれない。

孤独な人間にはお互い孤独を

犬のようにすぐ嗅ぎ分けるのだ。

それを彼が決して健全な実用的な

人間ではないことを

玲子は眠りからさめたばかりの

トロンとした目つきで

いち早く見抜いたにちがいない。

『命売ります』三島由紀夫著

玲子は自分は“先天性梅毒“に

犯されていると思い込んで

酒や薬に逃げ込み怠惰な暮らしを

していたところに

同じような“臭い“のする

羽仁男にあったので、自分に

惹きつけたいと思ったのです。

自分の未来に絶望しながらも

年頃の幸せを夢見る玲子は

羽仁男と“臭い“こそ同じようでも

中身は

全く違う人間だったということが

のちにわかることになります。

つまり、羽仁男の考えは、

すべてを無意味からはじめて、

その上で、意味づけの自由に

生きるという考えだった。

そのためには、決して決して、

意味のある行動から

はじめてはならなかった。

まず、意味のある行動からはじめて

挫折したり、絶望したりして、

無意識に直面するという人間は

ただのセンチメンタリストだった。

命の惜しい奴らだった。

『命売ります』三島由紀夫著

羽仁男は

間借りすることになった玲子の部屋で

一人考えていました。

玲子が夜の街に繰り出して

怠惰で自堕落に過ごすのは

自分が病気(梅毒)で死んでしまう

かもしれない恐怖を紛らすため

だろうが、

例えば、勉強嫌いや学校嫌いなどと

同様、

このような世俗的な理由は

命が惜しいものの考え方で

本当に自分の命を脅かすものは

突然、活字が“ゴキブリ“

のように見えてくるような形で

現れてくる

「無意識」なものだと、

それが一番命を捨てるに

相応しい理由だと言いたいのかも

しれません。

玲子はただの“センチメンタリスト“と

言いたいのでしょうか。

とにかく同じ“命を粗末にしていても

自分は違うと上から目線で

玲子たちを軽く軽蔑している

ようです。

「つまらない女の泣き言を言うな。

 君こそ『命を売る女』らしく

 もっとキッパリとしたら

 どうなんだ。

 いずれにしろ、俺の命は

 俺のものだよ。

 俺の意思で俺の命を売る分には、

 ちゃんと覚悟をして売ってるつもりだ。

 他人の意思に左右されて、

 知らない間に一服盛られるなんか

 マッピラ御免だ。

 見そこなうな、

 俺はそんな男じゃない」

『命売ります』三島由紀夫著

この直後、玲子に

「じゃあ、どんな男やねん!」と

ツッコまえて詰まってしまうのですが

初めは世を儚む女だと同情していたが

玲子が自分と平凡な結婚をして

子供を育てることを夢にていると

わかり、

そのような

活字がゴキブリになるような感覚になる

“凡庸“で“つまらない“

人生を自分に期待されていると知って

少し、“引いていた“ら

毒を盛られたので

このような激しい展開になりました。

玲子はやっと理想的な男性に出会い

その人が自分の破滅的な人生を

否定してくれたことをきっかけに

今まで捨て鉢だ人生を

明るく生きれるかと期待するように

なっていたのにも関わらず

羽仁男の態度が急に“引き気味“に

なったのを感じて心中するつもり

だったのです。

なるほど言われてみれば

「そんな男」じゃない自分が

一体「どんな男」なのか、

よくわからない。

今、肩を怒らせて言った

自分の言葉が、急に風船のように

ぷかぷか空に浮いている。

その言葉はどうしても

今までの

自分から出たように思われない。

言うことは筋が通っているつもりだが

考えてみれば、

どこかおかしい。

理由はともあれ今、彼は、

「どうしても死にたくない」

という意味の啖呵を切ったのである。

『命売ります』三島由紀夫著

どんな理由であろうと

「命売ります」と商売を始めたの

なから、知らぬ間に殺されても

よかったはずなのに

むきになって玲子に

「何してくれるねん!」って

啖呵を切ってしまった自分は

「死」に対して恐れを抱き始めたのを

ひたすら隠すのに必死だったのです。

もう、この頃には『命売ります』

どころか

どう生き延びようか

この殺人鬼のような玲子から

どう逃げようかばかり考える

ようになっていました。

まとめます

凡庸を嫌い、孤独に苛まれた

羽仁男は自殺を試みても死ねず

クレイジーな「命」を売ることを

思いついて

その本分を達成しようとしましたが

三人の女性と関わることで

「命」についての考え方が

一般的で多数が考えそうな

失うことの悲しさ、恐怖、後悔などに

変わっていきました。

それは何より嫌だった“凡庸“であり

“平凡“にもかかわらず

それに縋るようになっていく。

最後には命を救ってほしいと

懇願した警官に

「命を粗末にする奴は屑だ。」と

言われたことにも素直に認める

始末です。

“命“は必死に守らなければならない

環境下に置かれないと

そのありがたみがわからない

ものなのでしょうか…

命売ります
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