①「凡庸」にも「孤独」にも耐えられない男『命売ります』三島由紀夫著

命売ります命売ります
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“命を売る“とはどういうことでしょう。

他人の命を売ったら犯罪ですし

自分の命を売れば

その代金を使うことは

できません。

でも、本書の主人公は自分で

使うことができたのです。

“自分の命“売るつもりで

事に挑むのに、関係した他人が

命を落としていくのです。

この生きることに無気力な

主人公、羽仁男が“命“を売ることで

何を得ることができるのでしょう。

本書で私が気に入った部分を

切り取って紹介したいと

思います。

自殺し損なった男〜命売ります

活字がゴキブリのように逃げていく

ただ、新聞の活字だって

みんなゴキブリになってしまったのに

生きていても仕方がない、

と思ったら最後、

その「死ぬ」という考えが

頭にすっぽりはまってしまった。

丁度、雪の日に赤いポストが

雪の綿帽子をかぶっている、

あんな具合に、

死がすっかりその瞬間から

彼に似合ってしまったのだ。

『命売ります』三島由紀夫著

コピーライターとして

そこそこ知られていた羽仁男なので

何気なく見た活字が

テカテカの赤黒い背中を見せて

逃げていくことは

自分の価値がわからなくなっている

という表現として

相応しいものだと感じます。

実際、活字が“逃げていく“なんて

あり得ないですが

死にたくなった彼は

これから

どんどん現実からの逃避を始めます。

“死“と言うものが

怖いものであったり

異物のようであったりする

常識からはかけ離れていきます。

まるで服でも合わせるように

“死“がすっかり似合っていると

表現されています。

羽仁男と対照的な生きたい女

「あの女は死ぬことを喜ぶような

 女とはちがうよ。

 それがあんたとはちがう

 ところだ。

 あの女はとにかくしゃにむに

 生きたいんだ。

 それが

 彼女の肉体のどこにもかしにも

 書いてある呪文のようなものだ。」

『命あげます』三島由紀夫著

羽仁男は

小柄な身なりのキチンとした老人に

“命“を売ることにするのですが

この老人の

浮気をした五十歳も歳の離れた

奥さんと死んでほしい

という事だった。

奥さんに対して復讐しようと考えた

ための依頼ですが

この奥さんはもしかしたら

自分(羽仁男)となら

喜んで幸福に死ぬと思うのではないかと

少し自惚れた言い方をして

老人のつまらない話を

少し揶揄うように言っています。

それに対して

本人の意思以上に生きたがっている

ほどの“生命力“を

“呪文みたいなもの“と言う

表現で感じられます。

線ではなく点の命

「信じたら丸ごと信じるし、

 疑ったら丸ごと疑うほかないですね。

とにかくあなたがここに来て、

 僕に金を払ってくれただけで

 僕は世の中に信頼というものが

 あることを信じるように

 なりましたよ…」

『命売ります』三島由紀夫著

羽仁男にとって長い年月をかけて

作る信頼は不要で

今の羽仁男にとって

瞬間で“信じる“と決めることだけが

信じられることなのでしょう。

“生“に対して線ではなく

点のようにしか感じられない

様子が伺えます。

もしかしたら、

るり子を殺したのは羽仁男自身では

ないだろうか?

何かすべて

が非現実的な世界で、

しらぬ間に、

あのベレエ帽をかぶった

ふしぎな男のメスメルズムにかかって

るり子を殺してしまったのでは

ないだろうか?

もしかしたらあの晩ぐっすり

熟睡していたその間に。

自分の命を売りに出したのが

結局、殺人につながったのでは

ないだろうか?

『命売ります』三島由紀夫著

るり子と一緒に死ぬために

関係を持ったけれど

羽仁男は帰され、るり子だけ

殺されてしまったのです。

るり子はあんなに生きたがって

いたのに…

るり子が遺体で発見されたことを

聞いても現実のこととは思えない

まるで

催眠術(メスメリズム)かかったかのように

思った羽仁男は

るり子が実際に存在したかも

疑わしいと思っています。

虚と現実がわからなくなっている

羽仁男なので無理はないのですが

るり子の死に少なからず

自責の念があるのは

るり子と過ごした甘くて尾を引く

思い出が

少し羽仁男を現実の世界に

引き戻す手立てになったのかも

しれません。

『人から見たら、孤独な人間が

 孤独から救われたいあまりの

 つまらない遊びと見えるだろう。

 だが、孤独を敵に廻したら大変だぞ。

 俺は絶対に味方につけているんだから』

『命を売ります』三島由紀夫著

羽仁男は鼠のぬいぐるみを

テーブルの向かいに座らせ

一緒に食事をします。

もちろん、鼠は食べません。

しかし、無理矢理ステーキを

押し付けると、鼠はテーブルから

転げ落ちます。

鼠はそれでも動かない

(当たり前ですが…)

鼠は死んでしまったとつまんで

戸棚に放り込んでしまった。

“孤独“の極まりです。

名声もお金もほどほどにある

声を掛ければ女性からもそれなりに

相手にされる…

ただ一つ、“凡庸“なだけが彼を悩ませ

“孤独“にしていくのでしょうか?

感想 まとめ

今回は命を売ろうと考えて

初めて、“命“売ったのです。

ただ、

今回は完売することはできません

でした。

次回は売り切ることができるのでしょうか?

なぜ、“あげる“のではなく

“売る“のでしょう。

命売ります
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