② 生きる意味を見出すことの無謀さ『命売ります』三島由紀夫著

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自殺に失敗した羽仁男は

どうせ死ぬなら“命”を売ろうじゃないか

と目論み、

一度目の依頼では

「只今売れ切れ」になったものの

死ぬことができませんでした。

今回は2回目の依頼の場面での

印象的な本中の一節を

紹介します。

自殺したくなる薬の実験台になる

広告を見たとやってきたのは

図書館で貸出係をしている

オールドミス的な女性が

ドアの表には

「売切れ」と書いてあるのに

羽仁男と生きて会えて

「お願いできる」とホッとしています。

命の代金で鰐(ワニ)を買う

“命“を売るということは

その代金を自分で使うことが

できないという疑問が湧いてきます。

依頼人の女も聞いています。

「僕には身内がいませんよ」

「そしたら命を売ったお金は

 どうするのです」

「あなたがそのお金で、何か

 始末に困る大きな動物、

 たとえば鰐とか、ゴリラ、

 とかいうものを買って下さい…

『命売ります』三島由紀夫著

一度目の依頼の時もジャム猫を

買うように勧めていたし

育て方も説明しています。

今回は鰐を進めています。

くれぐれもハンドバックに

してくれるなとも

羽仁男は言ってします。

そしてこう言います。

「鰐を見るたびに

 僕のことを思い出してくれれば…」

などと言っています。

自分が飼ってみたかったので

“生き物を飼ってほしい“と依頼する

羽仁男の気持ちは

“生き物“でも飼っていたら

“孤独“が少しでも癒されてたかと

思ったのでしょうか?

今更何をビビっていますか?

「皆さん、何をびっくりしたような

 顔をしているんです。

 人生が無意味で、人間がただの人形に

 すぎないことを、

 あなた方は百も承知の筈でしょう。

 こんなことくらいにおどろく

 あなたじゃないでしょう」

『命売ります』三島由紀夫著

これから、ヒゲトハナムグリという

甲虫を引いた粉を飲んと

“自殺したくなる“という仮説を

自分が実証するというと

「本当に死んでもいいのか?」と

びっくりした依頼人たちに

こう言ったのです。

なんか、

大の大人が何をやってるんだ

とツッコミたくなります。

かたや

つまらないから死にたがっているし

かたや

この薬で完全犯罪ができるのではないかと

真剣に考えている。

生きるということは

他人から見たらばかばかしい

ことなのかもしれません。

凡庸を蔑む心

花から花へ飛ぶ平凡な甲虫、

花粉の中へむさくるしい鼻を

つっこんでむせるほかに、

何一つ生涯にしてこなかった

怠け者の甲虫の粉末が

今、自分の体の中へ入ってきた

ところで、

この世がお花畑に変る筈もなかった。

『命売ります』三島由紀夫著

面白い表現です。

花から花へ飛ぶしかない平凡な甲虫を

揶揄していますが

これは、羽仁男も平凡を楽しめる

“甲虫“のようだったらよかったのに

という思いがあったのかと

思ったりします。

死にたいわけではない

世界が意味のあるものに変れば、

死んでも悔いがないという気持と、

世界が無意味だから、

死んでもかまわないという気持とは

ここで折れ合うのだろうか。

羽仁男にとっては

どっちみち死ぬことしか

残っていなかった。

『命売ります』三島由紀夫著

依頼人が羽仁男を「愛している」と

何度も叫んだことに対して

(なぜか好きになっている)

その一生懸命さが見えすいていて

その無意味な努力を浅ましく

感じています。

この世界に生きる“意味“を

見出すということは

とてつもなく無謀なことなのかも

してません。

だから、羽仁男は「死ぬしかない」

と思っているのでしょうか。

『凡庸だ。まるきりつまらん』

『命売ります』三島由紀夫著

これだけ“凡庸“ならもう死ねると

羽仁男は思いました。

死体って、何だか落ちてこわれた

ウイスキーの瓶みたいじゃないか。

こわれれば、中身が流れ出すのは

当たり前だ

『命売ります』三島由紀夫著

拳銃を頭に当てて

自殺しようをしましたが

この時、

依頼人の女がそれを取り上げ

自殺してしまう。

取り上げたのはわかるのですが

なんで自らを撃ったのかが

私も羽仁男もわからないようです。

ただ、人間の死については

物のように感じているようです。

羽仁男は二度とも

自分の命を売ろうとして

相手の命を失っていることに

なります。

自分はもう死んだ人間だ。

道徳も感情もすべてのものから

自分は自由なのだという

考えがあるのに

一方では、

死んだ女の愛の重荷が

頭にこびりついている。

他人なんかは、彼にとっては

ゴキブリと同じ筈だったのに!

『命売ります』三島由紀夫著

羽仁男が特に心を置いていた

女性ではないにも関わらず

彼女の死が重荷になっているようです。

自分はもう死んだも同様なのに

感情はないははずなのに…

徐々に現実の世界に引き戻されて

いっているかのようです。

この事件後は命を売るお仕事?は

しばらく休業?しています。

どうやら疲労?が溜まったからの

ようです。

なんだかもう死んでもいい人の

日々ではないですね。

それでも、

まだ死を身近にしいていたい

羽仁男はこの事件を意識の中から

消し去ろうとしています。

そして、物語は続いていくのです。

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