【感想】芥川賞 妹の狂気 妊娠カレンダー 小川洋子著

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妊娠カレンダーと聞くと一日千秋の思いで

出産を待ちわびているようなことと

想像してしまいましたが

この小説の内容はそんな優しい光に包まれた

温かい気持ちとは対極的な妹の複雑な

思いが綴られた物語でした。

国内では1994年刊行の作品『密かなる結晶』が

2020年に英ブッカー賞国際部門に

ノミネートされている報道を聞き

懐かしくなり、この作品を読み返しました。

著者紹介

小川洋子(おがわ ようこ)

1962年、岡山県生まれ。

早稲田大学文学部文芸科卒業。

88年「揚羽蝶が壊れる時」で

第7回海燕新人文学賞

91年、「妊娠カレンダー」で

第104回芥川賞を受賞。

2004年、『博士が愛した数式』が

第一回本屋大賞を受賞。

他、著書、受賞多数。

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姉の妊娠

両親が他界した姉妹の姉が妊娠します。

しかし、2年間、基礎体温も

しっかりつけていた姉の妊娠なのに

なぜか淡々しています。

『おめでとう』という言葉を引いてみた。

ー御目出度う(感)祝いの挨拶の言葉ー

とあった。

「それ自体には、なんの意味もないのね」

と私はつぶやいて、

全然おめでたくない雰囲気の漢字が

並んだその一行を

指でなぞった。

妊娠カレンダー 小川洋子著

「おめでとう」は本来、その言葉の意味より

気持ちの方が重要なのは

なんとなく、みんなが承知するところ

なのに、あえて言葉の方に意識を持っていく

ところに

その言葉と裏腹な気持ちが隠れている

様子が伺えます。

義兄への思い

姉の旦那として一緒に暮らす妹が

義兄に対してどういう気持ちを抱いて

いるかを表現している文面がいくつか

出てくる。

(姉のつわりに対して)

わたしには、義兄がとても惨めに見える。

彼には、気分が悪くなる理由なんて

一つもないからだ。

弱々しい彼のため息を思い出すと

苛立たしい気持ちさえする。

妊娠カレンダー 小川洋子著

この表現の後で、

わたしがつわりでげっそりとなっていても

横でフランス料理を平らげるような

人を好きなりたいとまでとことん

ダメおししている。

極め付けが

歯科技工士の義兄の歯科医で治療中

妹の歯の型取りをしている時の義兄に

対して

彼の指先が

口の粘膜を何度も撫でた。

わたしは思い切り

彼の指とそのピンクの塊(型取りのゴム)

を噛み締めたかった。

妊娠カレンダー 小川洋子著

妹の義兄への嫌悪感が十分伝わる

文章が随所に見られます。

しかし、それに気がついたことを

指し示す文章はありません。w

この姉妹の胎児に対する心情が冷静

姉は自分の赤ん坊に対して

「今頃胎児はねえ、

まぶたが上下に分かれ鼻の穴が

貫通している時期よ。

男子なら腹腔内にあった性器が

下降してくるの」

妊娠カレンダー 小川洋子著

妹はどうでしょう?

胎児の染色体は順調に増殖している

のだろうか?

彼女の膨らんだお腹の中で

双子の幼虫が連なりあっているの

だろうか?

妊娠カレンダー 小川洋子著

妹も妹ですね。

赤ちゃんを見ていないうちに

胎児に対して「母性」は持ちにくい

とはいえ、極端な表現でわかりやすく

示してします。

妹の姉に対する心情

姉が10年以上通っている精神科の

二階堂先生のところへ診察に

いく時の場面で

つわりのせいで腰がひとまわり華奢に

なり、頬がすっきりし、あごがとがってきた

姉はますますきれいに見える。

とても、妊婦に思えない。

妊娠カレンダー 小川洋子著

つわりのひどい姉に対して

わたしにできることといえば

においを出さないように

心掛けるだけだ。

石けんは全部、無香性のものに

取り替えた。

パプリカやタイム セージの香辛料の類は

缶に詰めて密封した。

姉の部屋にある化粧品はわたしの部屋に

移した。

歯磨き粉のにおいも気持ち悪いと

いうので、義兄が噴水式の歯ブラシを

手に入れてきた。

もちろん姉がいる時は料理を作らない。

どうしても必要な時は

庭に炊飯器や電磁調理器やコーヒーミルを

持ち出し、地面にござを敷いて食べる

妊娠カレンダー 小川洋子著

もう徹底的に姉に対して敬愛の気持ちが

ありありと表現されています。

妹の未必の故意と狂気

つわりが収まり、逆に過食となった姉に

グレープフルーツのジャムを作って

食べさせます。

姉は大変気に入って、作ればすぐに

鍋ごと食べてしまい、また作るよう

妹に要求します。

妹も日課になったように

グレープフルーツのジャムを姉が

出産まで作り続けて、姉に与えます。

ここで、このグレープフルーツなのですが

『出荷までに3種類の毒薬に漬けられる

グレープフルーツ』

『防カビ剤PWHには強力な発癌性。

人間の染色体そのものを破壊する』

あの時の一ページが

ぼんやり頭の中で揺れていた。

妊娠カレンダー 小川洋子著

『PWHは胎児の染色体を破壊するかしら』

鍋の底で怯えるように微かに震えている

ジャムを見ながら、わたしはそう思った。

妊娠カレンダー 小川洋子著

日本に入ってくるフルーツは検査もしてある

もので、体に毒がある食品は出回らないし

それも妹はわかって上でやっているとは

思いますが、

グレープフルーツを買うときに

「アメリカ産」かを確認しているところから

相当、妹は脳内で胎児に対して

よかなぬことを考えているようです。

まとめます

本書に登場する妹は姉に対して

憧れや敬慕の気持ちが強く、

自分から

姉を奪うのものは胎児も義兄も敵の

ような扱いになっているようです。

つわりが終わり過食のため太った姉の

ことを“一つの大きな腫瘍“と表現している

ところも“醜い“という気持ちではなく

「仕方がない」ことのように

捉えているあたりでも察することが

できます。

しかし、周りは誰も妹のこの気持ちに

気づいていないのが面白いし

ドラマや実写ではなく小説なので

楽しめる表現が多かったのが

良かったです。

後、妹とか姉とか義兄の名前は

出てこない続柄だけで通している

ところもこの物語の無機質感が

現れているかなと思いました。

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