【感想】本当に強い人間は決して自分で手を上げないもの『機関車先生』伊集院静著

機関車先生機関車先生
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1944年に刊行された作品。

映画やアニメにもなった小説で

戦後の離島の小学校を舞台に

臨時教員として30歳の男性教員が

北海道より赴任してきたことから

物語は始まります。

表題になっている『機関車先生』は

機関=キカンは口をキカン(利けない)

Dー51機関車のように大きくて

力強いイメージから生徒たちが付けた

あだ名です。

「話をしない」先生の三ヶ月間の

島の暮らしと生徒たちの生活には

戦後の行き詰まった世の中を

反映した少し切ないストーリーも

含まれていますが

全体的には瀬戸内の綺麗な景色と

純粋な島人の様子が伝わってくる

作品です。

機関車先生はこの短い期間に

島に生徒たちに

何を教え何を教わったのでしょうか。

歌が伝えない機関車先生

「先生の好きな歌はなんですか?」と

妙子は聞いてハッとします。

先生はそんな妙子にも

「歌は好きです」と示し

どのように楽しむかを伝えます。

島の大人や教育委員会では

この機関車先生こと吉岡誠吾先生は

先生が務まるのか心配でなりません。

しかし、子供たちは

自分たちを大切にしてくれる先生を

大好きになります。

誠吾自身も目の前の子供たちが

自分の新しい道を開いてくれる

天使のように思っていました。

父親がいない寂しさ

島の子供たちの父親は漁師が多く

一度漁に出ると長い間帰ってきません。

それにも関わらず貧しい生活で

網元に借金をして暮らしているような

状態です。

その借金を返すために単独で漁に出た

修平らの父親は

遭難し遺体も上がることなく

亡くなってしまします。

誠吾も戦争で父親を亡くしています。

教育者として自身の経験からして

修平を慰めようとしましたが

島の生活を知り尽くした

漁師の作造でなければ

修平を慰めることができない事を

口惜しく思うのでした。

命の大切さを伝えたい

敗戦まもない日本では

教員の確保も難しいその中であったも

校長と誠吾は教育の大切さを

痛感しています。

「吉岡先生。

私はね、たくさんの教え子たちを

戦争に行かせたんですよ。

戦争が愚かなことはこころの半分で

わかっていました。

それでもお国のために戦地へ行けと

言ったんです。

それは恥というより罪でした。

私は自分自身を見て、

つくづく人間は愚かなものだと

思います。

愚かなことをする人間を作らないことが

肝心です。

裸の王様を裸と言えるように

あの子供たちは育って欲しいと

思っています。

それだけでいいと思っているんです。」

「機関車先生」伊集院静著

戦後、このことを心に誓う先生が

どれだけいたでしょうか。

生徒を戦地へ送ったと自責の念を

抱きながら生きていく校長の苦しみに

誠吾も共感するのです。

本当に強い人間とは

誠吾は生徒の前でヤクザにボコボコに

されても抵抗しません。

日頃の先生を知る生徒たちは

当然、こんな悪いやつをやっつける

強い人だと思っていたので

とても失望します。

それからは生徒たちは先生に

よそよそしい態度になります。

「弱い先生は嫌い!」だと言って…

そこで校長は生徒たちに戦時中

島に居たドイツ人と島人との

間にできたヤコブという少年の話を

します。

髪の毛の赤いヤコブは苛められます。

それでも耐えていました。

それを聞いた修平は

「わしはそいつに石を投げ返したる」と

怒って言うと

「そいつがまた石を投げ返したらどうする?」

「また投げ返したる」

「それが戦争の始まりじゃ」

修平は父親の死を知って

人はなぜ死ぬのかと死に対して

嫌悪を抱いているため

戦争などなぜすることになったのか

わからないと言っていましたが

この自分の発言で少し気付きます。

「そうじゃ、人が人を憎いとか、

悪い奴じゃと決めたところから

戦争は始まるんじゃ。

戦争はな、国と国が争うように

見えるが本当は人間のこころの中

からはじまっとるんじゃ」

「機関車先生」伊集院静著

校長はこのことと誠吾がヤクザに

抵抗しなかったことを

結びつけて生徒たちを悟します。

いいか、君たちが大人になった時に

正しいと思ったらそのことを

はっきり口に出して言える人に

なってほしい。

相手に石を投げたり、殴られても、

それをすぐにやり返さずに

我慢できる人になってほしいんじゃ。

本当に強い人間は決して

自分で手を上げないものじゃ。」

「機関車先生」伊集院静著

生徒は誠吾の方を見ます。

言われた意味がわかったのでしょう。

誠吾の方は黙って、うつむいていました。

生徒たちに誠吾のしたことの

意味が伝わってよかったです。

誠吾もそうですが

人に何が教えたい時は

言葉を尽くすより

行動で示すのが一番なのかも

しれません。

機関車先生は十分生徒を

導いていけているのです。

機関車先生は島を去る

教育委員会より

新しい先生が見つかったと

知らせを受け島の人たちは

誠吾が島に残れるように

必死で考え、残れるようになったにも

関わらず、北海道に帰って行きます。

「北海道で子供たちが待っている」

と言うのです。

島に残るために

みんなが骨を折ってくれたのが

繊細な誠吾は恐縮してしまった

のかもしれません。

子供たちは残念でなりませんが

この「仕方がない」ということも

生徒たちは

これから学ばななくてはならない

ことでもあるのでしょう。

修平も父親の死を受け入れなくては

ならないし

島では完結できない人生が生徒たちの

未来には待ち受けています。

機関車先生との別れも

それらの寂しさや悔しさも

耐えて生きていくための

学びたったのでしょう。

感想

作品は幼い子供たちにとっては

残酷なこともありましたが

終始、瀬戸内の美しい景色が

思い描かれるため

悲観的な感じではなく

著者が育った島がモデルになって

いることから考えると

著者の感性もこの環境から成るもの

なのなら納得がいくと思いました。

機関車先生
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