【感想】愛するということ『乳房』伊集院静著

乳房乳房 伊集院静
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著者はどうしても

書きたかったのでしょうか…

女性に対して奔放だったのは

作品を読んでもわかるのですが

数いる女性の中で

著者にとって唯一

綴っておきたかった思いだった

のでしょうか?

私の勝手な著者のイメージに反する

ゆとりがない、

切羽詰まった感が伝わり

胸の痛みを感じる作品です。

作品の設定

とても短い短編小説で

妻の入院中の出来事と少しの回想で

構成されている。

半年ほどの僅かな期間に

主人公の憲一の里子に対する

思いを凝縮させている。

ただ、ひたすら里子への思いを

綴っている。

憲一と里子の出会い・結婚

憲一と里子は里子が10代の時に

出逢った。

彼女は舞台照明の助手として

彼の前に現れた。

憲一は結婚していたが別の女性と

暮らし、里子とも関係を持っていた。

7年後、二人は入籍した。

里子が入院する

その里子が癌になり

本人には本当の病名を告げられず

里子は入院することになる。

憲一は仕事をやめ

看病することとなる。

なぜ『乳房』なのか?

表題と書きはじめから見て

「乳がん」なのかなあ、

摘出による悲しみを夫である

主人公が癒していくお話なのかと

思って読んでいくとそうでは

ありませんでした。

「乳房」が性の象徴

ここで出てくる“乳房“は

「性」の象徴として用いられて

いるようです。

里子との関係も

性欲的な繋がりが強く

そのことに対して著者は赤裸々に

綴っています。

里子と夫婦になろうが

聡子が瀕死の状態になろうが

その関係は続いています。

憲一は入院している里子が

その“務め“を果たせないことを

気にしていることと

柄にもなく

献身的に看病しているのが

変わった役目を演じているような

錯覚を起こしそうになっている

自分に気づき

友人に女性を紹介してもらい

その女性を抱こうとしましたが

できませんでした。

ゆきずりの女性に里子を投影

今の自分はいつもの自分らしくない

と三郎に指摘され

本来の自分を取り戻すかのように

欲情のまま、病室の里子を残し

他の女性と関係を持とうとする。

私は女の乳房にさわった。

やわらかい大きな乳房だった。

女が急に声を出した。

喉に何か引っかかったような

声だった。

私は女の上に乗っかかると

乳房を掴んだ。

色の黒い女だったが

それが女のたくましさを感じさせた。

この女は健康なのだと思った。

どんな男をも受け入れる健康な肉体が、

私が掴むたびに号令の

ようにあえぎ声をあげていた。

病巣を拒絶する強い肉体を

女は持っているのだ。

それだけで、この女はゆるぎない

自由を持ち合わせている。

「乳房」伊集院静著

この女性はかつての里子だった

のでしょう。

それなのに今の里子は自分が

“女“として憲一のそばにいることが

できないことを申し訳ないように

思っている。

そんな、里子が不憫に思い

憲一は自分が情けなかった。

病室で触る里子の乳房

帰ってきた憲一は

里子の身体を拭いて着替えさせます。

その時、里子は憲一の手を

自分の乳房に持っていきます。

そして、その手を自分の頬に当てます。

憲一は里子の髪に頬を寄せます。

二人は綺麗な満月を見上げます。

憲一は里子が僅かにおしゃれとして

結んだギンガムチェックのリボンの

木綿の匂いを感じています。

里子に対して肉体以上の愛情を

感じている瞬間なのかもしれません。

感想

里子は憲一を他の女性から奪い

自分の若い肉体で慶一を繋ぎ止めていた。

その気持ちをある意味利用していた

憲一だった。

それが結婚した途端

里子が癌になり生死を彷徨う

ような状態となる。

二人の関係は今までのような

傲慢な関係ではなくなっていく。

憲一はこの稀有な経験で

初めて女性を深く愛したと

言いたかったのでしょう。

乳房 伊集院静
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