【感想】美しい数式になぞられた生活 博士が愛した数式 小川洋子著

博士が愛した数式博士が愛した数式
スポンサーリンク

よく数学者は数字の並びを「美しい」という。

例えば「この公式の美しさがわかる?」

とか

「世界一美しいと言われている数式」

なんてことを言ったりする。

本書の「博士が愛した数式」にも

いろんな数学で使われる数字や記号が登場する。

しかも、「愛した」数式とはどんなものなの

でしょう。

あらすじ

登場人物としては

事故で脳に障害を持った初老の数学博士。

その博士のお世話をすることになった

家政婦と小学生の息子。

博士の義理の姉(未亡人)

博士は、記憶が80分にか持たない脳の

障害を抱える。

独身の彼のお昼を作り、掃除、洗濯

身支度や清潔、受診の手伝い、夕ご飯作り

までを

義姉から依頼され家政婦がやってくる。

今までなかなか家政婦が続かないこの

博士の世話をするのに

不安があったが効率よりも丁寧さが

求められた仕事にやりがいを感じていた。

博士は事故前の記憶は鮮明だったので

教授としての仕事は退職を余儀されたが

数学の懸賞金を得て生活していた。

義姉は夫を亡くしアパート経営で

生計を立てていた。

博士は若い時は

兄が夫婦で彼の研究を支えていた

経緯がある。

そして、夫を亡くした今でも義弟を

支えている。

のちに、この家政婦の息子

(博士からはルートと名付けられる)

も絡み、物語が進行していく。

最後は、記憶の保持する機能

(ビデオテープのように80分したら

上書きされていく)が

破綻し療養所生活になる。

ルート √

家政婦に息子がいることを知った

博士は、仕事の間、家で待たせるのは

かわいそうだと言って

博士の自宅に呼ぶように促した。

その時、彼の頭が平らだったので

ルートと愛称をつける。

ルートの算数の宿題を見てあげながら

数学の面白さを教える。

博士は記憶が80分しか持たないため

いったんルートのことを忘れてしまう

のだが、会うたびに同じように

ルートに愛情を注ぐ。

彼にとって幼い子供は無防備に

慈しむことのできる対象で

どんな時でもその態度は変わらなかった。

博士にとってルートは美しい数式

そのものだった。

オイラーの公式

この物語にはいろんな数字や数学の公式

記号なのが出てくるが

その中でも

この公式がとても重要なのです。

博士の家政婦を義姉より解雇されて

しまった家政婦。

しかし、息子は勝手に博士に会いに行き

義姉に叱責されるシーンで

家政婦と義姉が争っていると

博士は

「いかん、子供をいじめてはいかん」

とこの公式の書いたメモ用紙を

テーブルの上においた。

すると、義姉はその美しい数式を

見て怒るのをやめた。

このオイラーの公式は数学者のうちで

世界一美しい数式とも称されるもの。

この物語ではこの公式は

水戸黄門の印籠のように

家政婦と義姉の争いをやめさせる

きっかけになった。

私はeやiやπなどの複雑で

意味のわからない文字の塊が

一をたすことで0になるという

潔さがゴジャゴジャした

思惑の塊をルートという一人の

少年を加えると問題もたいしたことじゃ

なくなるということなのでは

ないのかなあと

思いました。

博士にとってそれほどルートは

清いものなのかもしれません。

義姉=未亡人と表現

著者は初めの紹介以外は

義姉を「未亡人」と書いています。

「未亡人」という言葉はなんだか

艶かしい 艶っぽい感じを

連想してしまうのですが

あえて著者は使っています。

交通事故当時、助手席に乗っていたのは

この未亡人でその時以来彼女は

足を怪我し杖をついています。

家政婦と博士の関係が親密になる

につれて未亡人はこの家政婦や息子を排除

しようと考えます。

博士にとって義姉との関係は

はっきり男女の関係であることは

書いてありませんが

(物語は家政婦の心情を中心に

書かれているので家政婦の彼女以外

のことは事実は分からず彼女の

想像で表現されている)

博士の愛した数式とは

対極的なものだったのかも

しれません。

人生において親しいものといえば

数字とルートと名付けた少年だけいう

博士にとって

義姉との関係は

美しいだけの数式では表現できない

ものだったのかもしれません。

この、数式を示されて未亡人は

この家政婦を復職されたことから

考えると

この義姉もそのことがわかっていて

自分も博士にとって美しい数式の

ようでありたいと願う恋慕の気持ちが

あったのではないかと

私は思いました。

まとめます

現在、第17回となった本屋大賞。

その第1回の作品が本書。

小川洋子さんは「妊娠カレンダー」で

芥川賞を受賞された。

日常だけどその中にドラマチックな

フィクションを織り交ぜた作品で

引き込まれてしまいます。

「博士が愛した数式」は映画化され

たくさんの人に知られる作品となりました。

美しい数式そのものを表現した少年。

世の中は美しい数式だけでは

語れない無常感をその対比で

表現されています。

心が小さく震える作品です。

博士が愛した数式
スポンサーリンク
スポンサーリンク
inuimieをフォローする
スポンサーリンク
ぽつのブログ

コメント