【耽美】決して触らないストーカー『みずうみ』川端康成著

みずうみみずうみ
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川端康成の作品『みずうみ』に

出てくる「桃井銀平」は間違いなく

ストーカーで読む人を不快にさせる

登場人物なのに

本書でストーカーされた女性たちは

なぜか銀平に対して

恨みを抱いているように

書かれていない。

この作品に出てくる

ストーカー銀平を多くの読者が

「気持ち悪い」と評しているにも

関わらず、

私はこの作中の女性同様

さほど、憎みきれないのです。

それは、女性を性の対象というより

“耽美的“に見て

決して“触らない”からかも知れません。

銀平の心を捉えた女性たち

銀平は高等学校の国語教師なのですが

美しい女性を見かけると

我を忘れて後をつけてしまう

今で言うストーカーなのです。

教え子の玉木久子

銀平が初めて後をつけた女性が

教え子の玉木久子なのですが

久子の家の前までつけて来て、

その門の立派な構えにハッとして

立ち止まっていたら

扉を開けて入ったはずの

久子が振り返って「先生。」と

声をかけてので銀平は

つけていたことがバレたと

青ざめてから赤らみながら

「ここが玉木さんの家か」と

かすれ声で誤魔化します。

また、銀平が前後不覚にも

酩酊か夢遊のように

久子の後をつけたのは、

久子の魔力に誘われたからで

久子はすでに魔力を銀平に

吹きかけていたのである。

昨日つけられた久子は

その魔力を自覚し

むしろひそかな愉楽におのれに

おののいているかもしれない。

怪しい少女に銀平は

感電しているのだ。

『みずうみ』川端康成著

とても、

抗えない魅力に取り憑かれた

教師の銀平は

「わあ〜最悪!」って感じで

久子の家からなんとか

逃げて出して来て、

我にかえった銀平は

さっきまでの見つかって

「恥ずかしい」という感情から

変わって、

みずうみの岸で山からふく

柔らかな風が吹いたように

感じたのです。

それは

母の村のみずうみをイメージした

ものです。

久子のような少女を追ってしまうのは

銀平が少年時代、

従姉妹の少女やよいと一緒にみた

母のように美しいみずうみを

連想させてくれるからなのです。

久子はこれから

銀平に積極的にアプローチをかけるので

性的なイメージへと

変わっていきますが

あくまで、

ストーカーしたの段階では

そこまでは考えていなかったように

感じられます。

老人の愛人水木宮子

久子に対しては

“職権濫用“的な感じでしたが

今度は街ですれ違った

“美しい女性“の後をつけます。

銀平にとっては、

女の行く方であって、

それが道であっただけだ。

『みずうみ』川端康成著

本物の“ストーカーです。

女のほかは一切が見えないのです。

そして、

銀平はその女性のハンドバッグで

顔を殴られます。

女性は一目散に逃げていきました。

さびしい屋敷町にさしかかってから

銀平は自分でもわからぬうちに、

追跡の距離を縮めていたのだろうか。

『みずうみ』川端康成著

ハンド・バックで殴られて

初めて、宮子との距離を意識するって

どれだけ“悦“なのか。

でも、触ってませんよ。

いや!気持ち悪いですよね。

しかし、ここが宮子は少し違った

感想なのです。

銀平が後をつけているあいだ、

宮子はおびえていたにちがいないが、

自身ではそうと気がつかなくても、

うずくようなよろこびもあったかも

しれない。

能動者があって受動者のない快楽は

人間にあるだろうか。

美しい女は

町に多く歩いているのに、

銀平が特に宮子をえらんで後を

つけたのは、

麻薬の中毒者が同病者を見つけた

ようなものだろうか

『みずうみ』川端康成著

久子の宮子も追われることに

喜びを感じていたのです。

久子はそれから

銀平を追い回すことになり

教職を追われてしまうことに

なります。

宮子はすれ違った時、銀平の

「ああっ。」と言う

声にならない声で

泣きそうに叫んだのを聞いて

「これあ〜ついてくるな」と

思ったのです。

この銀平が自分を失っていく様を

感じ、その男の抜け出した影が

宮子のなかに忍んでくるように

感じています。

やっぱり“魔性“の女はすごい!

普通は怖いだけ…>_<

宮子は若さを買われて

裕福な老人の愛人(奥さんはいないけど)

になっているのに

後からより若い

この老人の“愛人志願者“が現れ

愛があるわけでわないので

奪われるかもしてないという

宮子にとっての怠惰な悩みが

あったのですが

このストーカーのおかげで

「私もまだまだ大丈夫」と

思えたのかもしれません。

柴犬をひいた少女町枝

この時も、柴犬をひいた少女が一人

坂の下からああがって来るだけだった。

いや、もう一人

桃井銀平がその少女の後をついていた。

しかし、銀平は少女に没入して

自己を喪失していたから、

一人と数えらるかは疑問であった。

『みずうみ』川端康成著

また、我を忘れるような少女が

現れます。

ちなみに銀平は三十四歳です。

この少女の奇蹟のような色気が

銀平をとらえてはなさなかった。

赤い格子の折りかえしと

白いズックの靴とのあいだに見える、

少女の肌の色からだけでも

銀平は自分が死にたいほどの、

また少女を殺したいほどの

かなしみがせまった。

『みずうみ』川端康成著

この清楚さに“色気“を感じる

国語教師の銀平は確かに

不快かもしれませんが

この“自分が死ぬか“

“相手を殺すか“と言う気持ちは

気持ち悪いと言うより

よく言えば、“純度の高い“思いを

感じます。

ただの変態とは言い切れません。

(言えますか…)

これも、みずうみの里での従姉妹の

少女やよいとの思い出を

連想させるからです。

やよいには

綺麗な母親に不釣り合いの

父を罵りられて、

悔しい思いをしましたが

その時のみずうみを思い出すには

やよいを彷彿させる

少女の存在が必要なのです。

銀平にとって“みずうみ”は

母親のようなものだったのでしょう。

町枝には話しかけますが

ストーカーのような行為を

微塵も感じさせません。

町枝は銀平に対してなんの関心も

示していませんが

町枝の彼氏である水野に

「あなたの彼女は綺麗でうらやまし」

と言ったものだから

水野は気持ち悪がって

銀平を突き飛ばします。

銀平はとにかく“美しい“と

讃えたいだけで自分のものに

したいと言う感じではないのです。

町枝に触れることは

絶対ないのです。

少女の目が黒いみずうみのように

思えてきた。

その清らかな目の中で

泳ぎたい、その黒いみずうみに

裸で泳ぎたいという、

奇妙な憧憬と絶望とを

銀平はいっしょに感じた。

『みずうみ』川端康成著

母のように美しいみずうみで

不審な死を遂げた

不恰好な父と

やよいの犬に咬み殺された鼠が

放り込まれたみずうみに

自分の姿が重なって

憧れはあっても

触れてはならないと言う

絶望を少女に抱いてしまうのです。

まとめます

確かに気持ちが悪いし

不快かもしれませんが

決して、自分のものにはならない

触れることもできないものに

引き寄せられて

抗えない主人公銀平は

不憫ではありますがどこか

その美しいものに

どうしても惹かれてしまうという

気持ちは

純度の高い感性だと感じました。

みずうみ
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