【自分の喪失】②取り返しの付かないこととは 『リアルワールド』桐野夏生著

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2003年に刊行された作品で

母親を殺し逃亡した男子高校生に

興味を持った仲良しグループの

4人の女子高校生。

それぞれがこの事件を通して

自分のリアルを見つめることになる。

悲劇的な結末の中で

誰でもない自分に成長していく。

取り返しの付かないこととは

母親を殺してしまった男子生徒こと

ミミズ

(トシは心の中でそう呼んでバカにしていた)

動機は子供も自分のもののように扱い、

虚栄心の道具とし

自分が思う息子ではないとわかった

とたん、

罵り侮辱し始める。

そのことに腹を立て

母親を殴り殺してしまう。

全く、躊躇せずに…

ミミズと本書では呼ばれる

この男子生徒は取り返しの付かないことを

やってしまったのだ。

しかし、このミミズに興味を持った

女子学生のグループのテラウチは

「取り返しのつく」ことをしたと

言い放つ。

だって、

死はいずれ経験するだろうから

むしろわかりやすい

結末を選んだっていう意味で

敗北に近い。

相手を殺すのは、

自分の憤怒や屈辱や欲望に

落とし前を付けただけで、

それで問題が終了した訳じゃない

のだから、

取り返しが付かないことじゃない。

本当の

「取り返しの付かないこと」と

言うのは、永久に終わらなくて

ずっと心の中に滞って

そのうち心が食べ尽くされて

しまう恐ろしいことだ。

「取り返しの付かないこと」を

抱えた人間はいつか破壊する。

リアルワールド 桐野夏生

母親を殺したミミズは

自分を苦しめた対象を消し去ることで

それから逃れられると信じている。

それに対してテラウチは

対象を消したところで問題の解決に

ならず、

自分が生きている限り

その苦しみからは逃れられない。

テラウチも母親に対して失望し

その思いから逃れられなくて

苦悩している立場から

対象を消し去ることは単純で

「取り返しの付く」ことだと思っています。

そして、もう一人女子グループの

キラリンはミミズに

「死んだらいい気味だけど

 復讐できないから

 残念に思う。

 私はそいつを悔しがらせたいんだもの。

 ああ、あんないい女を裏切って

 馬鹿なことをしたなあって」

リアルワールド 桐野夏生

大人のように咎めることなく

ミミズを諫めていく少女たち。

すぐに捕まっていたか気づけなかった

ことに気付かされ

父親まで殺そうと考えていたミミズに

時を戻したいと言う“後悔“が

生まれてきます。

その“後悔“を感じて生き続けること

こそが

「取り返しの付かない」ことだったのです。

それを裏付けるように

テラウチは自ら命をたちます。

許せない母親を許してしまう

自分を破壊してしまったのです。

まとめます

本書に出てくる少年、少女は

表面的には楽しく賑やかしく

過ごしているように見えても

親たちにも友達にも自分の本当の姿を

見せることはありません。

大人や友達を自分と違うもので

決して交わることのない者と

捉え、孤独に必死に耐えている様子が

本書からは伝わってきます。

著者も本書の中で犠牲を払いながら

そのことを訴えています。

孤独の中であってもせめて、

仮の自分として生きるのではなく

本来の自分になって

生きていってほしいという著者の

願いが込められた

作品のように私は思いました。

リアルワールド
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