【感想】最初で最後に思い人と言葉を交わせたのは手術室だった『外科室』泉鏡花

外科室外科室
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一度目を合わせただけで

恋に落ち、それをお互い胸に秘め

再びあったのが、9年後。

男は外科医として女は患者として

手術室(外科室)で出会うことになる。

そう聞いただけでも、

ロマンティックな感じじゃないですか?

早速、読んでみようと

思ったのですが

旧仮名使い?と言うのか

なんとなくはわかるのですが

ちょっと、辞書を片手に読み進めたので、

超短編ですが疲れました😆

あらすじ

時代は明治。

華族の貴船伯爵夫人の手術を引き受ける

ことになった医学士高峰の親友の予(私)が

見て感じたことを綴る。

高峰に強いて手術の見学に来ていた

予は高峰の様子がおかしいのに

気がついた。

手術を受ける夫人はなぜか麻酔を拒否。

周囲に詰め寄られて訳を聞かれると

渋々「麻酔がかかると自分が胸に秘めている

秘密を漏らしてしまうかもしれない」と

答えた。

胸を切る大手術なのでみんなで

「それは、無理!」と説得するが

ガンとして聞かない夫人。

「麻酔をして手術をしても術後死にます」

とまで言う始末。

手術室で座ってそのやりとりを

黙って聞いていた執刀医の高峰が

「看護婦、刀(メス)を」と言って

手術を始めてしまう。

夫人はメスが胸に入って血汐が吹いても

じっと動かない!

高峰の手捌きは鮮やかであり

手術も佳境に入りメスが骨に達した時

夫人は半身を起こし

高峰の腕を掴み「貴下(あなた)だから」と

繰り返す。

「でも、貴下は私を知りますまい!」と

言うと

高峰のもつメスに片手を添えて自分の

乳の下深く掻き切る。

高峰はおののきながら

「忘れません」と言い

これが二人の今生の別れになった。

夫人は死に同じ日に高峰も死ぬ。

麻酔を拒む貴船伯爵夫人

自分の病気の深刻さは重々承知していた

夫人がなぜ麻酔を拒んだのか?

夫人は文中で

「秘密を話してしまうのが怖い」と

言っていますが

本当にそれが理由なのでしょうか?

夫である伯爵も

「そうとは限らんやん」と言ってるし

「俺にも聞かせたくないことなのか?」

と少し怪訝な感じ(そりゃそうでしょう😆)

まあ、麻酔をかけられて意識が

なくなることの不安はあるでしょう。

江戸時代の外科医であった

華岡青洲の妻を題材に扱った小説にも

麻酔の実験体として妻加恵が

麻酔をかけられる前に、

自分の両足を縄で縛ったことからも

麻酔をかけられた自分がどうなるかが

不安な女性は多いかもしれません。

この時代の女性は慎み深いのでしょう。

唯一、愛しい相手と会話ができる瞬間だった

長年、心に秘めていた一見しか

したことのない相手と唯一

言葉を交わせる瞬間がこの手術室

いわゆる、『外科室』だったのですよ。

私だって寝てられない!

確かに自分の病気のことは気にしないと

いけない(伯爵や姫がいるから…)

でも、今日命が尽きようと

生涯叶わぬと思っていたことが

叶うと思うと死の恐怖や旦那や子供の

ことを考える理性は吹っ飛んでしまった

のかもしれない。

夫人が蒼白なる両の頬に刷けるが如き

紅を潮しつ。

ぢつと高峰を見詰めたるまま、

胸に臨める鋭刀にも眼を塞がむとは

なさざりき。

この夫人の姿が手術の恐怖や旦那や子供を

考えている様子ではないでしょう。

そして、思いを告げた後、胸を掻き切る

なんて激しい気持ちだったのでしょう。

麻酔をかけて、手術を成功させて

生還する気など毛頭なかったのでしょう。

メスを入れた瞬間の鮮やかさと同じように

夫人は散っていったのです。

見とれば雪の寒紅梅、血汐は胸よりつと

流れて、さと白衣を染むるとともに

夫人の顔は蒼白は旧の如く

いと蒼白くなりけるが

果たせるかな自若として

足の指をも動かさざりき。

この状態で身動き一つしないなんて

どれほど昂揚しているか

わかります。

「忘れません」の一言で思いを凝縮

夫人の最期に言った高峰の一言。

「忘れていません」ではなく

「忘れません」と言っている。

これは過去のことを覚えていると

言いた買ったのではなく

これから先も

「貴方を忘れません」と伝えたかったのでしょう。

その声、その呼吸、その姿、

その声、その呼吸、その姿。

夫人は嬉しげに、いとあどけなき微笑を

含みて高峰の手より手をはなし

ばったり、枕に伏すとぞ見えし、

唇の色変わりたり。

その時の二人が状

あたかも二人の身辺には

天なく、地なく、社会なく

全くなきが如くなりし。

高峰は良い年頃なのに独身を貫いて

いたのはこの思いがあったからかと

予は察しています。

高峰にとっての「真の美の人」と

言わしめたのは夫人だけだったようです。

感想・まとめ

この当時の階級社会では

夫人は高峰にとっては高嶺の花だった

のかもしれません。

「貴下」をあなたと読ませているのですが

貴下は下位の人に使う敬称なので

高峰を「貴下」と呼んでいる夫人は

しっかり“身分“という階級を意識して

それが隔たりになったと言わんばかりの

表現になっています。

それゆえになおさら

夫人にとっても生涯を通して

秘めていた恋心だったのです。

“鳴かぬ蛍が身を焦がす“と言いますが

秘めれば秘めれるほど

思いは深くなり結局

命の尽きる最後に渾身の行動で

思いを伝えることに

なったのです。

シュチュエーションが美しいです。

9年前の出会いも躑躅(ツツジ)が

咲き乱れる植物園だし

その時にあった夫人の美しさも

文中では直接高峰が誉めている場面は

ほとんどなく

周辺にいた男たちに語られせている所が

野暮ったくなくて

この作品のお気に入りポイントでした😆

好き勝手書いてしまいましたが

いろんな角度で楽しめる

作品だと思いました。

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