【感想】男女の関係じゃない高純度恋愛小説 きらきらひかる 江國香織著

きらきらひかるきらきらひかる 江國香織
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1991年の発表、

1992年に豊川悦司と薬師丸ひろ子で

映画化された。

30年もたった今、読んでも

その純度の高さに

酔ってしまう恋愛小説。

あらすじ

アルコール中毒の女と同性愛者の男が

結婚し愛し合うお話。

二人はお見合い結婚をします。

元々は二人ともお見合いはしたものの

結婚するつもりはありませんでした。

笑子はアルコール中毒でギリギリの

精神状態。

ちょっとしたことで精神のバランスを

崩し、鬱になったり躁状態になったりを

繰り返しています。

性格も元カレ曰く、

「笑子はホンポー(奔放)で

 ジョウネツテキ(情熱的)で

 セツナテキ(刹那的)」

と称され、「付いていけない」と

距離を置かれてしまいます。

彼、

睦月は綺麗な顔立ちの内科医で潔癖症。

年下で大学生の紺という

これまた

奔放な彼がいます。

その彼とは到底別れられないが

両親には、反対される関係。

そんな両親の攻撃をお互い避けるため、

スネに傷あるもの同士

結婚することとなったのです。

とはいえ、笑子は精神が不安定なので

家事などは潔癖症の睦月が嬉々と

して引き受け

笑子の唯一、任されたことは

睦月のベットのシーツにアイロンを

毎回かけること!

暖かくてシワのないベットに寝る

ことが睦月にとって至福の時

だからです。(掃除以外でw)

睦月は仕事も家事もこなし

笑子は気分で翻訳の仕事をしながら

世間一般には

“普通の夫婦“を装っていました。

親も友達もそれぞれの当人のことは

知っていましたが

相手についてはアルコール中毒のことも

同性愛者のことも

知らせていませんでした。

全てを許し合った結婚生活は

世間の目を欺きながらも

ごっこみたいに楽しくて

気ままで都合の良いものでした。

しかし一緒に暮らしていくうちに

周りを巻き込みながら

お互いの思いが

強く、複雑に絡み合っていきます。

笑子にとって

睦月はかけがえのない存在に

睦月とっては

肉体関係を持てない恋愛対象へと

変わっていく。

そして、一般的な“夫婦の像“から

だんだん逸脱し、破綻をきたし始める。

結局、

家族や友達に本当のことを

告白することになる。

なぜ、理解しあった関係に

破綻をきたし始めたのか?

それは、笑子と睦月の心情が

結婚した当時のものとは

違ってきたことにあります。

自分の気持ちに真っ直ぐなアル中笑子

お酒を飲んで鬱になったり躁状態に

なったりと

家庭内では

家事は一切しないし

ものを投げたり、泣き出したりと

特に睦月の前では

すっちゃかめっちゃか!w

この上なく優しいけど

皮肉も伝わらない無頓着な

睦月の言葉や態度に

イライラしてしまうのです。

ただ、笑子の場合は

睦月の彼のことも大好きだし

肉体的な関係がないといったことには

全く関心がなく、そして

睦月が自分に好意があることも

知っている。

なのに焦燥感に苛まれるのは

睦月にとって、

自分は必要な存在なのか

妻としてふさわしいのかに

苦悩しているのです。

可愛らしいのです。w

ここに、尋常でない笑子の純粋で

真っ直ぐなところが

垣間見れます。

ゆえに、酒に溺れるのでしょうね。

完璧な睦月のコンプレックス

実直で嘘もうまくつけない睦月。

仕事も家事も完璧な彼の唯一の

コンプレックスは女性を愛せないこと。

しかし、それ自体も

別にどうでも良かったのですが

笑子に対しては違っていました。

そのことに負い目を感じるのです。

笑子に対して愛情を感じても

その肉体的な行為はできないのです。

しかし、紺という彼とは

肉体関係を続けています。

それが彼の苦悩となり

笑子をイラつかせる

言葉や態度となってしまいます。

笑子の真っ直ぐさや純粋さに

惹かれていくうちに

その負い目がどんどん悪化して

いきます。

水を抱くようなもの

義父は笑子に睦月と暮らすことは

「あいつと結婚することは

 水を抱くようなものなんじゃないか?」

と言います。

笑子はそれを聞いて

「いいんです。私、セックスがそんなに

 好きじゃないですから。」

と答えます。

この日の夜は

睦月の前で物を投げたり、

泣き出したりします。

これは楽しくて気ままで都合の良い

結婚生活の代償だと

笑子は最後には納得するのです。

“水を抱く“なんて表現は絶妙ですね。

水の檻

“負い目“に耐えられなくなった

睦月が苦肉の策として

笑子と元彼をくっつける作戦にでる。

(結婚前にお互いに恋人を作っても良い

 約束をしている)

しかし、元彼とのルートがないので

笑子の唯一の友達、瑞穂に

事情を伏せたまま

協力してもらう。

瑞穂は「なんてことを頼む旦那だ!」と

思いながらも

元彼の羽根木と遊園地で再会させる。

そのことを目論んだのが睦月だと知って

ショックで

笑子は倒れてしまう。

怒った瑞穂は睦月に連絡。

睦月はすぐ駆けつけ、

意気消沈してしまった笑子に

「ごめん」と謝り

抱き抱えて帰っていく。

笑子は、そんな睦月を責めることが

できない。

優しい“水の檻“に閉じ込められて

しまっているのだ。

銀のライオンたち

事情が説明できないので瑞穂とも

絶交してしまった笑子。

しかし、当の本人は瑞穂と

絶交しても

睦月の同僚の同性愛者たちと

仲良くしながら

睦月の彼の紺とも遊んだりと

充実した日々を

送っているようだった。

二人の自宅にある日

実父が突然訪ねてくる

ことになった。

笑子は慌ててお茶菓子を買いにいく。

『良い嫁』を目指すために…w

笑子が出て行った後に

実父がやってきた。

父親のことが苦手な睦月は

笑子が早く帰ることを祈りながら

周りくどい父親との間をもたすため、

以前笑子に聞いた『銀のライオン』の

話をした。

「何十年に一度多発的に生まれる

 白いライオンは極端に色素が弱く

 仲間に馴染めずいじめられるので

 いつの間にか群れから

 姿を消してしまうらしい。

 彼らは草食で生命力が弱くすぐに

 死んでしまうらしい。

 それでもそのライオンたちの

 たてがみは風に揺れると

 銀色みたいで美しいらしいよ。

 笑子はユニークだよね。発想が」

と引きつった笑いと共に話すと、

睦月の父は

「私には笑子さんも銀色のライオンに

 見えるよ。」と揶揄される。

いつもいろいろ言われることを

慣れていた睦月だったのに

この言葉は睦月が

暴走し始めるきっかけとなる。

後日、笑子に相談せず

瑞穂や笑子の両親に

自分が同性愛者だと

告白してしまうのだ。

誠実、その恐ろしく大事なこと

睦月は“誠実“のためなら

どんな犠牲もいとわないのか?

笑子はそう感じていたようだが

睦月は自分の主義というより

笑子のためだけを

考えていたと思う。

笑子の純粋な

睦月への愛に答えるために…

それは、睦月のためなら

絶交しようが両親を騙そうが

彼氏がいようが

なんでもないことだった

笑子のその愛に似ている。

睦月もどうしようもなく

笑子を愛しているのです。

感想

普通のセックスレスの夫婦とは

違う観点で描かれているのが

純度の高いところ。

狂おしいほどの愛情が

肉体で表現できないことで

この上なく高濃度になっていく。

僕はなぜか泣きたいような

気持ちになった。

不安定で、行き当たりばったりで

いつすとんと破綻するか

わからない生活、

お互いの愛情だけで成り立っている

生活。

きらきらひかる 江國香織著

引き止められるのはお互いの愛情だけ。

乾杯するシャンパンの泡は

きらきらとひかっています。

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