【感想 あらすじ】一人の男のために生きたマリア 『女の一生:キクの場合』遠藤周作著

女の一生:キクの場合女の一生:キクの場合
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一人の男のことを

生涯思いながら

最後は一目も会うことなく

この世を去った

あまりにも、献身で

清冽な女の愛に

身震いを覚えた作品。

キリスト教を軸にした

遠藤周作の作品。

あらすじ

幕末から明治にかかる頃

長崎の浦上村農村では

農民の団結を恐れた政府によって

厳しく切支丹の弾圧が行われていた。

馬込郷のキクは幼い頃

木から降りれなくなった所を

助けてもたった日から

中野郷に住む清吉のことが

好きになりました。

しかし、清吉の住む

中野郷は隠れキリシタンの村で

あったため

いつもお上より監視されている

そんな村の出だったので

キクは清吉が好きでも

誰にも打ち明けられませんでした。

キクはキリスト教には

全く興味はなかったのですが

ある時清吉がお寺で十字を切っていたり

マリア像を恍惚して眺めているのを

見た時

「自分の好きな清吉はご法度を

犯している」ことに気づきます。

結局、清吉はお上に捕まり

拷問を受けることになります。

それが

浦上切支丹弾圧事件でなのです。

キクは捕まった清吉の様子が

知りたくて

生まれ故郷を離れ

色街で下人として働いていました。

キクに目をつけた流罪の切支丹を

監督する伊藤という奉行は

キクが熱心に清吉のことを

聞いてくるので

ひどい虐待を受けていることを教え、

少しでも清吉を

優遇して欲しければ

自分に身を任せろと迫ります。

地獄のような申し出でしたが

清吉の衰退が目に浮かび

承知してしまいます。

それからは、

伊藤から清吉に渡してもらうをお金を

稼ぐため、身を落としていきます。

当の伊藤は清吉に物や手紙は

渡しますが小判などの金子は

自分のために使ってしまいます。

清吉はキクからの差し入れを

心の支えにし耐え凌ぎます。

清吉は廃教しても

村八分になり、また

再入会しざろう得ない状態となる

運命。

それだけにキクの支えは絶大でした。

しかし、キクのことを考えて

「自分のことは忘れるように」と

伝えるよう伊藤に言付けを頼みます。

しかし、伊藤はキクからの身入りが

減ってしまうので

そのことをキクには伝えません。

しかし

その反面キクを愛してしまっていたので、

清吉に嫉妬して

別れさせたい気持ちもありました。

そうこうしているうちに

キクが結核で倒れます。

もう長くないと悟ったキクは

マリア様の前で

清吉への思いを語り

動かなくなります。

それから、明治時代が始まり

諸外国からの批判を受け

切支丹弾圧は破棄され

清吉は解放されます。

信仰の自由を勝ち取ったと

誇らしげな清吉ですが

真っ先に会いたかったキクは

もうこの世にいないことを

知るのです。

それから、長らくして

清吉は結婚して子供をもうけ

農具や種の商人になっていました。

そこへ一通の手紙が届きます。

伊藤からでした。

そして、昔の浦上に戻った清吉は

全てを聞くのです。

自分のためにおのれの体を

汚してまで尽くしてくれていたことを…

その金を伊藤が着服していた

ことも聞いた時

清吉は何回でも伊藤を

ぶちのめしたい気持ちに

なりますが

洗礼を受け生涯反省して暮らす

伊藤のことを知って

気を沈めるのです。

伊藤も本当にキクを

深く愛していたのです。

聖母マリヤとキク

キクは切支丹でもないし

清吉が恍惚としてマリア像を見ていた

ことを知って、逆にアリア様を

嫉妬で憎んでいました。

「あんたのために清吉は捕まって

しまった」

「あんたなら清吉を助けてくれるやろ?」

「もし、助けてくれたら切支丹に

なってもよか」

清吉を助けてくれるかもと願い、

親はいないと嘘をついて

教会の下働きしながらマリア像に

祈った。

「清吉さんはひどか目に

合わせんごとて…

あんたも同じ女子なら…

うちのこん悲しか思いば…」

マリア像もこの信徒ではない

キクの恨み、呪詛を黙って聞いていた。

キクが最後にすがったのはマリア像

もう今世では清吉とは会えない

と悟ったキクが最後に渾身の力を

振り絞って

たどり着いたのがあの憎い

マリア像の下だった。

生涯を清吉にかけ

親、兄弟友達を遠ざけていた

キクには

いくら憎くても清吉のことを話す

相手はマリア像しかなかったのです。

(うちは

あんたば好かんやった。

清吉さんがうちよりも

あんたのほうば大切に思う

とったけんね。

うちは清吉さんの心ばこっちに

向けようて焼餅ばやいたことも

あるとばい)

彼女は咳をした。

(もうだめんごとある。

 うちは負けてしもうた。

 あんたと違うてこん体は

 よごれきっとるけんね)

女の一生 キクの場合  遠藤周作著

死体を見た警吏らが

キクのことをふしだらな娘と

揶揄している中

伊藤は

「お前らに…この娘の何がわかる!

この娘に比べてらお前らや自分が

どんなに薄汚いか!」

伊藤はキクを丁寧に弔うよう命じるのです。

感想

清吉が最も敬愛した聖母マリア。

生娘のままイエスを生んだとされる

マリアの清らさが

キクを苦しめた。

その苦しめたマリアにしか

キクはすがれなかった。

死ぬ最後まで清吉のことを

思っていたかったのだ。

清吉以外自分のことですら

捨ててしまったキクは

切支丹ではなかったが

隠れキリシタン以上の

孤独を背負うことになる。

そして、一目も会うこともなく

無事も確認できずこの世を

去っていったのです。

キクは清吉よりも

深い深い信仰心があったと思う。

そうでないと

これだけの“愛の代償“を

払うことはできないであろうから。

清吉は自分にとって何が

神の御加護だったか知るのは

キクが亡くなってから

ずいぶん先になるのだが

本当に神が救いたかったのは

切支丹ではないキクだった

ことでしょう。

女の一生:キクの場合
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