【感想】ユウタナジイ 安楽死 命は誰のもの? 高瀬舟 森鴎外著

高瀬舟 山椒大夫高瀬舟
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高瀬舟とは、古くは貨客を運ぶ

河川や浅海の小舟ことで

この小説では、遠島を申し渡された

京都の罪人がこの小舟で護送される

ところから始まる。

京都からこの川を下り

大阪まで行く道中で

それに同行した配下の同心、庄兵衛と

罪人、喜助の世間話を書いている

短編です。

楽しそうな罪人、喜助

島流しになる喜助はなんだか楽しそう。

身体を横たえることなく

表情も晴れやかで

瞳も輝いている。

大体、島流しなのだから

泣きはらしていても仕方がない

ところです。

当然、同心の庄兵衛の関心を引く

ことになります。

庄兵衛は率直に聞きます。

すると、今までの暮らしは

本当に大変であったと

漏らしはじめます。

いくら働いても

食べていくこともままならず

借金生活の毎日。

このたび島流しのために

遣わされた二百文ですら

手元に持っていたことがない。

病気の弟の面倒も見ながらの生活は

自分がどこに住んでいる

なんてことを考える余裕もなかった。

だから、喜助にとって島であろうが

鳥目(銭)が貰え

食事も与えてもらえるなんて

幸せなことだったのです。

庄兵衛の気持ち

普段なら

罪人を宰領(監督する)していると

その悲惨な境遇から

涙を禁じ得ない状況になることが

あるが

喜助の様子と話からはなぜか

そんな気持ちにはなれない。

庄兵衛自身と比べても

今の喜助の状況は安らかなのだ。

喜助の罪とは何か?

喜助が仕事から戻ると病気の弟が喉を

さしていた。

血だらけで喉から漏れる息の音を

聞こえる。

弟は死のうとして剃刀で喉をついたが

息が漏れるだけで死に切れない。

この剃刀を抜いてくれたら

しっかり切れて死ぬことができるから

やって欲しいと言われる。

もちろん、医者を呼ぼうとするが

その時の弟の形相は恨まんばかり

だった。

そこで、医者を呼ばず

このままでは苦しむのは辛かろうと

首に手をかけると弟はさも嬉しそうな

様子になった。

そこで、剃刀を引き抜いたところに

弟の服薬の世話を頼んでおいた

近所のおばさんがその様子を見て

年寄衆へ届け

喜助は役所に連れて行かれる。

これが果たして弟殺しと云うものだろうか

人殺しと云うものなのだろうか

と云う疑が、話を半分聞いた時から

起こって来て

聞いてしまってもその疑を解くことが

できなかった。

高瀬舟 森鴎外著

確かにそれを抜いて

死なせてしまったのだから

殺人罪にはなるが

それは、いずれ死んでしまう状況の

弟に苦しみから早く解放してあげる

ための行為で弟自身からも

懇願されている。

ゆえに、庄兵衛は喜助が罪に問われることに

疑問を感じている。

ママ
ママ

でも、少し微妙な表現が書いてあるわ。

わたくしが剃刀を抜く時、

手早く抜こう、真直に抜こう

と云だけの用心はしていましたが

どうも抜いた時の手応は

今まで切れていなかった所を

切ったように思われました。

刃が外の方向に向いていましたから

外の方が切れたのでございましょう。

高瀬舟 森鴎外著
ママ
ママ

とどめは自分がさしたということを明確に表現しているね。

命は誰のもの?

動機はどうであれ喜助によって

命は断たれたのは事実であるのでしょう。

しかし

この、晴れやかな喜助の様子は

どのようなことを

示唆しているのでしょう。

状況から考えて喜助のとった行為は

正当と捉えることもできますが

喜助は本当に弟のことを思う気持ち

だけでこのような行為に至ることに

なったのでしょうか?

もしかしたら、

喜助自体にもわからない

のかもしれません。

そして、弟も最後の瞬間、

「やっぱり、死にたくない!」

と願う気持ちはなかった

のでしょうか?

そもそも、助からないと判断した

喜助は正しかった

のでしょうか?

もしかしたら

喜助は助けるために

剃刀を抜こうとして

誤って深く切ってしまった

のでしょうか?

「死人に口無し」とはいいますが

喜助の証言だけでは本当のことは

わかりません。

そして

弟の命はこの時、自分(弟)と喜助の

どちらのものだったのでしょうか?

自殺しようとした弟のものか

直接死なせた喜助のものなのか。

罪に問われるかどうかは

この議論も必要なのです。

まとめます

ページ数で言えば

十数ページしかない短編ですし

内容も島流しに向かう道中の

世間話だけなのに

現在にも通じる問題を

この大正時代に

提唱している鷗外はやはりすごい

優秀な人物だったのだと感心して

しまいました。

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高瀬舟
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